トラキチがたまに見る悪夢の話にゃ。
それは、身体の調子を知るバロメーターにもなってるにゃ。
ボイラー の夢にゃ。
これを見ると、間違いなくトラキチは疲れているにゃ。風邪をひく前兆だったりもするにゃ。
ところで、なぜ ボイラー か?
実は、トラキチは若い頃、寄宿制の国立学校の職員だったことがあるんよ。勤めていた役所からの出向にゃ。
そのとき、同じでタイミングで、その学校では用務員さんが欠員になったんよ。
そこで、事務職員のトラキチが、寄宿舎の風呂を焚く係を命じられたわけにゃ。
要は、釜爺(かまじい)のポジションだにゃ。
「千と千尋の神隠し」に出て来るクモみたいなおっさんにゃ。
なお、トラキチの場合、風呂だけにゃなく、冬の暖房管理も担当させられたにゃ。
そんでもって、これが大変、大変。
何が大変かって、そこには2基のボイラーが置かれているんにゃけど、どちらもあちこち 壊れて るんよ。
かなり老朽化していて、交換間近のオンボロの状態なんよ。
マジで手を焼いたにゃ。
ちなみに、ボイラー扱うんだったら、資格が必要なんじゃないのって、みんな思うにゃろ?
トラキチは資格持ってにゃい。
にゃけど、それって実はボイラーの規模に拠るんよ。
その学校にあったボイラーは、資格がなくても扱えるギリギリの規模・性能のものだったわけにゃ。
ただし、ボイラーの資格制度については、トラキチはいまも詳しくない。
そこで思うに、あれって本当は講習なんかを受けておかないと触(さわ)れないものだったのかもしれないよにゃ。そのあたり、昭和の昔は、公務の現場でも結構いい加減だったりしてたのが実際にゃ。
ともあれ、ボイラー2基が置かれたそこは、まるで船の機関室みたいな空間にゃ。
部屋中、ぶっといパイプだらけの中に、縦2.5メートルくらいの、ドラム缶のお化けみたいな汽罐本体が2つ、ドーンと並んでるにゃ。それが交代でうなりを上げてるにゃ。
すごい迫力だった~。
で、これがなんと あちらこちら壊れている という、実に困った状態にゃ。
なので、
渇水です――!
満水です――!
けたたましい警報が真夜中でも鳴り響くんよ。容赦なく。
そのたび、当直の職員は叩き起こされるんにゃけど、もちろん、トラキチもそのかわいそうなひとりにゃ。
でもって、昼間にそうなったときは、基本、駆け付けるのはトラキチなんよ。
なんでって、トラブルの多くは、トラキチがお風呂のお湯を焚いてるときに起こるからだにゃ。
「渇水には特に注意」
と、いうことにもなっていたよにゃ。
いわゆる「空焚き」になるもんにゃ。なので、当然、迅速対応にゃ。
さらに、もっとヤバかったのが配管――パイプの劣化にゃ。
内側から人知れず伸びてきていた腐食穴が、やがて外に貫通した瞬間、そこから蒸気が噴き出してくるんよ。
トラキチは一度、足にこれを浴びた にゃ。
もちろん、靴もズボンもはいていたから、大したことにはならなかったんにゃけど、あちこちはりめぐらされたパイプの中には、顔の高さのものもあるんよ。
「いま目の前のこいつが蒸気を吹き出したら、オレはどうなるんだ?」
不安になったよにゃ。
「それより、このボイラーがいま爆発でもしたら、オレはここで殉職か」
それもよく思ったにゃ(笑)
なにしろ、この2基のボイラー、ホントにおんぼろで、運転中に異様な音を立ててブルブル震え出すこともあったんよ。
バルブのパッキンもあちこちイカれていて、シューシュー蒸気漏れ、お湯漏れしてたよにゃ。
要は、SF映画のイヤな場面だにゃ。エイリアンが陰から出て来そうだったり、ロボットが拷問されてたりの暗いやつにゃ(笑)
さて、そんなハードな景色にゃ。
これが、いまでも夢に出てくるんよ。
そんでもって、そのときは決まって身体のどこかに疲労が溜まってるんよ。
さっきも書いたけど、寒い時期だと風邪をひきやすくなったりもしているにゃ。
なので、このボイラーの夢、近い将来のリスクを報せてくれる 予知夢 ということで、トラキチは感謝しないといけないのかもにゃ。
なお、2基のボイラーは、トラキチがその職場を去ってから間もなく、予算がついて、入れ替えがされたとのことにゃ。
(イラストは「かわいいイラストが無料のイラストレイン」さんより)