トラキチが大好きなすばらしい漫画を1冊紹介するにゃ。
「李朝・暗行記」にゃ。
皇(すめらぎ)なつき にゃん作。
トラキチがこの本を買ったのは1993年にゃったかな。場所は新宿のルミネ1にあった青山ブックセンターにゃ。
もう、とにかくびっくりしたよにゃ。
なにしろ舞台が李氏・朝鮮王朝にゃ。
「え、なんでそれがびっくり?」と、いまならみんな思うにゃろうけど、'93年って、冬のソナタブームの10年も前にゃぞ。韓流のハの字もない頃にゃ。
「よく調べた!」
「よく描いた!」
「よく目をつけた!」
「ついでにこれを描くのを許した編集もえらい!」
拍手を贈っても贈り足りないくらい、当時はマイナーで、知られてなかった分野にゃ。
絵がすごくキレイにゃ。なつきにゃんの絵は、野に咲く花のように可憐で美しい。
いわゆる朝鮮版水戸黄門の暗行御史(アメンオサ)という人々のことは、トラキチはこの作品で初めて知ったにゃ。
そんで、この本の中で、トラキチが一番気に入っているエピソードが「北辺の疾風」にゃ。
「冬になると鴨緑江を越えて野人(ヤイン)がやってくる―――」
そんなナレーションとともにはじまる、壮大なイメージの湧く物語にゃ。
主人公の暗行御史以上に主役なのが、女真(ジュルチン)の青年にゃ。つまり満州族にゃ。
この男は、数年前に朝鮮の村を襲って、婚礼直前の娘を誘拐したんよ。ほんで、無理やり妻にしたにゃ。子どもももうけたにゃ。
ところが、ある日、悲劇のあったその村にさらわれた娘が逃げ帰って来るんよ。遠い野山を越えて。
ところが、人びとの目は厳しいにゃ。娘は「野人に汚されたであろう女」として、もはや二度と以前の社会に受け容れられることはないんよ。
それでも、彼女の婚約者だった村のリーダーの青年は優しいやつにゃ。傷ついた彼女を何とかして受け容れてあげたいんにゃ。
しかし、そこにやって来るんよ。野人が。勇猛な女真の戦士が。
こちらも危険を顧ず、たったひとりで馬を駆り、愛する「妻」を追ってやって来るんにゃ。
そして、この戦士が憎々しいほどに格好よすぎる。弓の腕も立ちすぎるんにゃ。
さらには、村をゆるがす衝撃の発言までかますにゃ。
「妻は俺の子を生み、連れて逃げた。子どもはどこだ。一緒に帰ろう」
女真の戦士、娘、優しい村のリーダー、そこにかかわり合うことになった旅の暗行御史…
そして、一向に姿の見えない野人と娘の間に出来た子ども。まだ1歳の幼子はいまどこに…?
娘を追って旅立つ前に、戦士は仲間にこういうにゃ。
「ソラホー(朝鮮人)と女真は万世の仇だ。しかし友よ。俺はソラホーが嫌いではない。あのうらやましいほどの誇り高さがな」
さりげなく語られるセリフ、登場人物たちの葛藤のそちらこちらに、東アジアの雄大な歴史、民族の誇り、文化、互いへの恐れとひそかな敬愛が映し出されるにゃ。
ページをめくるごとに大陸の風が吹いてくる、約30年前のすごい作品にゃぞ。
ちなみに、トラキチの手元にある本は、角川書店版の単行本にゃ。そのあと文庫版が出たようで、いま主に流通しているのはそちらみたいだにゃ。
単行本の場合、李朝・暗行記の3つのエピソード…
「鴛鴦恨」
「北辺の疾風」
「身世打令」
さらに、中国清朝を舞台にした
「貢院の鬼」
が収められているにゃ。どれも全部おもろいぞ。
トラキチは近年持ってた本のほとんどを断捨離してるんにゃけど、数少ない手放せない1冊が、この「李朝・暗行記」にゃ。