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【ネタバレ注意】眉村卓先生の傑作ジュブナイル「ねじれた町」のストーリーを変えてみるにゃ

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「ねじれた町」という小説があるにゃ。

 

昔々あった「ジュブナイル」と呼ばれていたジャンルの一作にゃ。書かれたのはこのジャンルの第一人者・眉村卓先生にゃ。

 

眉村先生といえば、’81年に映画化された「ねらわれた学園」が何といっても有名にゃ。

 

でも、トラキチはその「ねらわれた学園」よりも「ねじれた町」の方が数段面白いと当時思っていたにゃ。いまもそうにゃ。

 

ただ、読んでから数年したのち、「もうちょいストーリーを変えたいな」とも、思ったんよ。

 

勝手に改造案を考え、それをノートに書きつづったにゃ。17~8歳くらいの頃のことにゃ。

 

もちろん、ノートはすでに手元には無いにゃ。

 

でも、頭の中にはちゃんと残ってるにゃ。

 

その後、長い長い間、誰にも言わず温めていた壮大な物語(笑)。いま、初めてここに公開するにゃ。

 

 

ふしぎな城下町Q市

 

主人公ユキオは中学生です。会社員の父の転勤で、古い城下町・Q市に引っ越してきました。

 

Q市はある奇妙な慣習を抱えた町でした。年に一度、「鬼の日」とよばれる不思議な祭りがおこなわれるのです。

 

当日、外部の人間は残らず排除され、参加することも観ることもできない秘密の行事です。

 

ユキオは、その運命により、やがてこの「鬼の日」に参加することになるのです。

 

そして、思いもよらぬことから、Q市のねじれた歴史を変えることになるのです。

 

それが、この「ねじれた町」の物語です。

  

手紙は過去へ届いていた

 

Q市に引っ越してきたばかりのユキオは、早速奇妙な体験をさせられます。

 

転居して間もない晩に、以前住んでいた町の友人にあてて出した手紙…

 

それが、なぜか転校先の中学校で初めて会ったはずのクラスメイト・太刀川克巳の家にあるというのです。

 

しかも、それは昨日今日の話ではありません。

 

克巳の父親の曾祖父から、奇妙な切手が貼られ、存在しない宛名が書かれた不思議な手紙として、子へ、孫へと引き継がれてきたものでした。克巳の父親の曾祖父というのは、明治の初めの頃、郵便配達人をしていた人でした。

 

思い起こせば、ユキオがそれをポストに投じた晩にも不思議なことが起きていました。

 

道に迷い、そこで出会った少女・花巻千恵子に連れられてたどり着いた、街灯も点っていない真っ暗な住宅街…

 

時代劇の背景を見るような古い家並みの中に立っていた、木箱のようなポストにユキオは手紙を投じたのでした。

 

その千恵子もまた、ユキオの新たな同級生でした。

 

千恵子はユキオに「普通の人ならばあの場所から自力で戻っては来られない。あなたは特別な人なのかもしれない」と、告げるのでした。

 

Q市の暗い秘密

 

Q市には、外部にはあまり知られていない秘密がありました。

 

市民は、まるでここが城下町だった時代さながらに、いまも二つに分断されているのです。

 

方や、旧城主以下家来家中、つまり侍の血をひく「上の町」の人。

 

方や、町方の人々の血をひく「下の町」の人。

 

ただし、町方といっても、彼らはもともとこの地を支配していた旧領主の家来筋の人たちで、上の町の人々の先祖がこの地・Q藩へ国替えされたとき、侍の地位を強引に奪われた人たちでした。

 

両者を別ける線が、Q市では、社会のさまざまな場所や場面に、いまもはっきりと引かれているのです。

 

実は、「鬼の日」というのは、そうした日ごろ蔑まれている下の町の人々が、上の町の人々へ復讐を試みる日なのです。

 

この日の晩、Q市が不思議な濃い霧につつまれると、その力を得て、下の町の人々には特別な能力が宿ります。

 

想念がかたちになって現れるのです。

 

それは怪物のようなものだったり、人間と同じような姿をしていたり。これが鬼の日の「鬼」なのです。

 

かたちとなった「鬼」は、上の町の人々のもとへ殺到し、襲いかかります。

 

これに対して、上の町の人々も不思議な能力で迎え撃ちます。

 

「この日だけ、時を越えて先祖から借り受けることができる」と、彼らがいう力です。

 

家々伝来の刀や槍に光が宿り、これを振るうことによって、下の町の人々の生み出した「鬼」をうち払うことができるようになります。

 

それでも、ときには強力な鬼に襲われて大けがをする人や、精神的なダメージを被る人も現れます。それらの事故が、現実の市政の運営などに影響をあたえることも少なくありません。

 

そして、ユキオを不思議な街角へ案内した千恵子と、ユキオの手紙を大切に受け継いでいた家の息子である克巳、どちらも鬼の日に鬼を生み出す下の町の人間でした。

 

僕は鬼の日へ参加する!

 

やがて鬼の日が近づいてきました。

 

そんなある日、学校でもめごとが起こります。

 

片方のリーダーは、上の町の有力者の息子である那須勝之進。もう片方は、下の町の少年達のリーダー克巳。

 

あわや、けが人が出そうになる中、なんとユキオがこれを収めます。

 

鬼の日でもないのに、しかもQ市の人間でもないのに、なぜか突然かたちになって現れたユキオの想念、つまり「鬼」が双方に襲いかかり、たちまち争いを鎮めてしまうのです。

 

これを見て、千恵子と克巳は、ユキオに鬼の日への参加を強く勧めます。

 

一方で、これまでのユキオに対する優しい態度を一変させたのが、教師であり担任の山城でした。

 

山城は上の町の人間です。「よそ者は鬼の日に関わるな」と、ユキオにきつく釘を刺します。彼は、かつて鬼の日に強力な鬼の襲撃を受け、心身に深いダメージを負った経験をもつ人物でした。

 

ところが、その後も執拗に続いた山城の干渉が、逆に、消極的だったユキオの気持ちを変えてしまいます。

 

ユキオは鬼の日への参加を決意したのでした。

 

支配者達の反撃

 

ユキオの参加により、鬼の日は、例年とは一変したものとなりました。

 

これまでの鬼の日には、多少はお祭り気分もありました。

 

しかし、今回はユキオの想念が実体化した「鬼」のすさまじいまでの強さが、そんな雰囲気を吹き飛ばしてしまいました。

 

上の町の人々は、たちまち窮地に追い込まれました。

 

これを見て、すっかり勢いづいた下の町の人々に圧倒される中、このままでは現実世界での町の主導権も奪われると感じた上の町の人々は、ついに緊急の手段に打って出ました。

 

彼らは、かつて彼らの先祖が拠点とした城跡に集結し、下の町の人々をおびき寄せました。

 

個々が持つ刀や槍ではなく、彼らにとって最大の心のよりどころとなる武器・城の跡に、力を集中させたのです。

 

形成は逆転。

 

城跡に踏み込んだ下の町の人々の周囲に、いまは存在しないはずの城壁や櫓が次々と立ち上がり、彼らは包囲されました。

 

さらに、それらの狭間から、本物のいくささながらに、鬼を倒す光の矢玉が撃ち込まれました。

 

鬼は全滅です。

 

しかも、光の矢玉による鬼へのダメージがあまりにも大きいために、本体である人間の側にも、深手を被る者が次々と出始めました。

 

それを見て、千恵子が動きました。

 

この場に包囲された下の町の人々全員を一旦、時空の回廊を経由させ、安全な場所へ移動させるというのです。

 

これこそが、千恵子のもつ「鬼」の力でした。あの日ユキオをポストのある過去の街角へと導いた力です。

 

彼女は、ユキオが学校で鬼を出現させたのと同様、鬼の日当日でなくとも、わずかですがこの力を発動させることが出来るのです。

 

それを支えているのはQ市を包む霧でした。

 

鬼の日を迎えると特に濃度を増し、特殊な能力を人々に与えるこの霧は、実は鬼の日以外も常時町を包み込んでいるのです。

 

力の強い者はそれを利用することができます。

 

ところが、そこに、那須勝之進の鉄砲から放たれた光が襲いかかりました。光は千恵子を直撃し、彼女は人々を時空の回廊に放り込んだまま、気を失ってしまいました。

 

さらに、それだけでは済まず、続けて口をひらいた回廊の入り口に一気に吸い寄せられていく千恵子…

 

彼女を引き戻そうとその手を掴んだユキオもろとも、真っ暗な空間に消えて行くのでした。

 

千恵子の涙

 

ふとユキオが気づくと、すぐそばに小さくしゃがみ込み、千恵子が泣いています。

 

そこは時空の回廊です。

 

各時代のさまざまな情景が、周囲360度にわたり、スクリーンのように浮かんで見ええる不思議な空間です。それらが時には近づき、時には遠ざかる、時間と時間のはざまのような場所でした。

 

そこにいるのはユキオと千恵子だけ。

 

千恵子が気を失う前に移動させた克巳や下の町の人々は、千恵子が行き先をコントロールしてやれないまま、すでに遠い別の時代に飛ばされてしまっていました。

 

その姿は、ユキオの足もとの「スクリーン」に見えています。

 

千恵子によると、ここから見えているその姿は、飛ばされた先の時代ですでに数年を過ごしてのちの克巳達なのだとのこと。

 

厳しい環境の中で多くの人が斃れ、克巳はじめ生き残った数少ない人々が、いま武器をとり、その時代の人々を先導しながら、反乱を起こそうとしているところなのでした。

 

それは、江戸初期、国替えによりQ藩にやってきたばかりの新たな城主とその家来らを襲うためのいわゆる一揆でした。

 

標的は、その後Q藩を治め、のちにはQ市も支配することになる上の町の人々の先祖です。

 

実は、Q市の歴史では、旧領主の家来たちが起こしたとされているこの事件こそが、町を二分する争いの始まりとされていました。

 

しかし、本当はこの反乱は、時空を飛ばされ、帰る場所を失った克巳達が半ば自暴自棄になって主導し、起こしたものだったのです。

 

克巳たちはQ市の歴史を壊してしまうつもりでいました。

 

しかし、ユキオにはその結果が見えていました。

 

なぜならば、ユキオのいる場所から見える時空のスクリーンの中の克巳たちの姿は、彼ら自身気付いているのかどうか、まさに、この反乱を描いた古い絵図に描かれている人々そのものなのです。

 

その絵をユキオはあの手紙を受け取った日、克巳の家で見ていました。

 

描かれた人々は、皆、反乱が失敗して捕まり、刑場の露となった人々なのでした。

 

歴史の始まりは僕だった!

 

克巳たちを救いたい!

 

しかし、そうは思っても、彼らと同じ時代に飛び込んでしまっては、ユキオと千恵子も二度と元の世界には戻れません。

 

なぜなら、そのカギをにぎる能力をもつ千恵子は、Q藩およびQ市が、血なまぐさい反乱事件を経て、あの「霧」に包まれるようになってから生まれた人間なのです。

 

人々が鬼を生み出す能力や、千恵子のような特殊な能力が生じる原因となっている「霧」は、実は、反乱が失敗し殺された克巳達が、最初に生み出したものでした。

 

それが、その後のQ市の暗い歴史を経てますます成長し、やがて町を包み込む怨念の霧となったものなのです。

 

つまり、この霧は、克巳達がいまから反乱を起こそうとしている時代には、まだ存在していないのです。

 

そのため、もしも克巳達と同じ時代に飛び込んでしまえば、千恵子は能力を失います。自分や他人を時空移動させることができなくなってしまうのです。

 

しかし、ユキオはあることに気が付きました。

 

それは、本当の歴史の始まりです。

 

Q市の暗い歴史は、ユキオの目の前でいま起ころうとしている反乱から始まりました。

 

しかし、その反乱は、克巳達が時空を飛ばされ、その時代にやって来なければ起こらなかったはずのものなのです。あるいは、その可能性がかなり高いものなのです。

 

では、克巳達が時空を飛ばされた原因とは何か?

 

それは、鬼の日です。

 

ただし、例年どおりの鬼の日であれば、それは多少荒っぽくも風変わりないつものお祭りでした。

 

ところが、今回はユキオが参加したことによって、様子が一変したのです。

 

ユキオという人物ひとりがそこにいたために、騒ぎが大きくなり、克巳達が過去に飛ばされるようなとんでもない事態に至ってしまったのです。

 

であるならば、すべての始まりは、もしかするとユキオ?

 

ユキオさえQ市にやって来なければ、今回の鬼の日は特別なものにならず、克巳達は過去に飛ばされず、Q藩に反乱は起こらず、そのため、鬼を生み出す霧も、鬼の日も生まれなかったことになるのでは―――?

 

君を忘れなければならない

 

ユキオは千恵子に頼みました。

 

「僕を2ヶ月前の、前に住んでいた家に戻してくれ」

 

なぜなら、今回の父親の転勤についていくかどうかについて、実は、ユキオには選択肢があったのです。

 

以前から希望していた高校への進学のため、近くに住む親戚の家の部屋を借り、もとの町に居残ることも彼には出来たのです。

 

「今度は僕はそっちを選ぶ。Q市には来ない。僕がQ市に来なければすべてのことが起こらなかったはずだ。だからあの日に戻してくれ。一緒にQ市についていくと両親に告げてしまったあの日に、僕を戻してくれ!」

 

「それならできるかもしれない」と、頷く千恵子。

 

「急ごう!鬼の日の力が君にたくさん影響を与えているうちに」

 

ただし、その成功は、ユキオと千恵子にとっては永遠の別れを意味していました。

 

ユキオの読みどおりならば、ユキオが2ヶ月前に戻り、彼が両親とともにQ市に引っ越してくるという歴史を変えた瞬間に、Q藩・Q市の歴史は別のものに変えられてしまうのです。

 

ユキオがQ市にやってきて以来の、千恵子や克巳に出会い、今日に至ったすべての思い出も、もちろん消えて無くなります。

 

しかも、それだけでなく、代々Q市に続く家の娘である千恵子が、ともすればこの世に生まれて来なくなる可能性も…

 

しかし、千恵子はそのことを理解しながらも、それでも時空の扉をひらき、ユキオを2ヶ月前の世界へと送り届けるのでした。

 

無事、2ヶ月前に戻ったユキオは、両親に、転勤には同行しないことを告げました。

 

その瞬間、ユキオの脳裏からQ市でのすべての記憶が消え去りました。

 

再会

 

その2ヶ月後、両親の引っ越しを手伝うユキオの姿がQ市にありました。

 

Q市は小京都といわれ、古い町並みが人気の町です。

 

「小京都のハロウィン」などとよばれている仮装行事「鬼の日」には、大勢の観光客が見物に訪れます。

 

日本のハロウィンは(新しい歴史では)Q市の鬼の日が話題になったこともきっかけのひとつとなって広まりました。

 

引っ越し作業の終わった夕暮れ、両親を残して翌朝ひとりでQ市を去ることになっているユキオは、父に頼まれた手紙を手に、Q市の古い街角を歩きました。

 

通り過ぎていく剣道着の少年。太刀川克巳のようです。Q市の新しい歴史の中に生まれた新しい彼に、もちろんユキオは気がつきません。

 

さらに歩き、ポストを探していると…

 

自転車で横を通り過ぎた女の子が、振り返って、彼に声をかけました。

 

千恵子です。

 

その指さす方向に、ポストが立っています。

 

ただし、木箱ではありません。オレンジ色の円柱型のポストがそこに立っていました。

 

「ありがとう」

 

そう告げて、道路を渡っていくユキオの横顔をどこか怪訝そうに眺めたのち、走り去っていく千恵子。

 

ユキオも、また彼女を振り返り、なぜか理由のわからない懐かしさを感じつつ、自転車をこぐ後姿をしばらく見つめていたのでした。

 

▼以上の話の補足にゃ

michikusakun.hatenablog.com