タイトルをご覧になって、思い出される方も結構いるのではと思います。
斉藤由貴さんのアルバムに「ガラスの鼓動」というのがあります。
その歌詞カードに書かれていた言葉ですね。
「皆さんのうえにたくさんの祝福がありますように」
キリスト教会での礼拝やミサの最後に、牧師さんや神父さんが語るものとほぼ同じです。
「皆さんのうえに神の祝福あれ」
――― Good bless you. ですね。
斉藤由貴さんが信徒になっている(今も?辞めたんだったかな?)キリスト教系の信仰団体でも、おおむね説教の最後辺りで、こんな言葉が出てくるはずです。
いい言葉ですよね。
不幸なことに僕の心には、いかなる教えへの信心もいまは湧きませんが、これはとてもいい言葉だと思います。
ところで、「ガラスの鼓動」です。
レコードやCDの時代は、音楽アルバムは、ときに単なる作品集ではなく、全体がコーディネートされた組曲のようなものとして、よく作り込まれていました。
それは曲のみに留まらず、ジャケットなどのビジュアルも含めて、すべてです。
そうした中、
年端もいかないアイドルのものであるにもかかわらず、
「これは傑作だな」と、若い頃、いたく感心した作品が二つあります。
そのひとつが上記の「ガラスの鼓動」です。
もうひとつは、原田知世さんの「撫子純情」ですね。
当時すでに大御所だった坂本龍一先生プロデュースという、こちらはまさに関係者肝煎りのアルバムで、レコード盤までが白い特別仕様のものでした。
「ガラスの鼓動」は、斉藤由貴さん2枚目のアルバムでした(企画物除いて)。
1曲目が、なんとインストゥルメンタルから始まるんです。
アイドルのかわいい歌声ではなく、思いきりクラシカルな。
「ユキちゃ~ん」なんて、ダミ声で応援していた当時の若い男性ファンにとって、これは軽いショックを感じる出来事だったといってもいいんじゃないかと思います。
2曲目が「月野原」という曲。斉藤由貴さん本人作詞のポエティックな作品です。アレンジも実験的でした。つまり、冒険が続くんです。
3曲目。「土曜日のタマネギ」。谷山浩子さんのややコミカルで気だる~い詞が、男声アカペラに載ってしまっているという名(珍)曲。
4曲目の「初戀」でやっとちゃんとした(?)ポップスが聴けて、80年代キッズはどうにかホッとさせられるという、まあ、何ともものすごい展開でした。
ちなみに、僕はこのアルバムの最後から2番目の曲、「海の絵葉書」というのが、斉藤由貴さんの歌の中では一番好きです。
さて、この「ガラスの鼓動」ですが、僕はいまの時期のように秋になると、決まってこのアルバムと中の曲のことを思い出すんです。
アルバムの発売はたしか春でした。
でも、中身はとても秋らしいんですね。
「千の風音」
「月野原」
「土曜日のタマネギ」(ポトフが出てきます。秋の感じのする歌です)
「コスモス通信」
「海の絵葉書」(秋が舞台ではありませんが背景に夏の終わりを感じる詞です)
「今だけの真実」(海沿いが舞台ですが小道具は熱いお茶です)
・・・ね、な~んか、秋っぽいんですよ。
ちなみに「お引越し・忘れもの」という7月7日を舞台にした作品もあるんですが、これって七夕の歌なので、季語としては秋ですね。
斉藤由貴さんのアルバムでは、この「ガラスの鼓動」のあと、
「チャイム」
「風夢」
と、いい作品が続きます。
アイドルという存在や言葉に、どこか触れがたい「聖性」が宿っていた時代における作品。いずれも、その代表といってよいひとつです。
おそまつ。
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