<当サイトでは広告掲載をさせてもらってるにゃ>

相撲好きな貴人の正体 民部稲荷 <川越の伝説>第4話

 

川越の賑やかな商店街、クレアモールにある大きなデパートといえば、丸広百貨店にゃ。

 

その屋上に神社が祀られてるにゃ。「民部稲荷」だにゃ。

 

いまの社殿をこしらえた際に、近くからご遷座いただいたとのことで、屋上までは誰でも行けるから、お参りも自由にできるにゃ。

 

そして、もう一箇所。

 

同じ民部稲荷様が、丸広百貨店の南東の裏手にある川越八幡宮にも祀られてるにゃ。境内社だにゃ。こちらは分祀にゃろうか?

 

ともあれ、この2つの民部稲荷にゃけど、面白い伝説があるにゃ。

 

昔々のこと。武蔵国多摩郡の八王子に、ひとりの小坊主さんがいたにゃ。

 

この小坊主さん、時折、夜になると、周りが寝静まった頃を見計らい、そっとどこかへ出かけていく。

 

「あの子、一体どこへ?」

 

ある日、心配になった住職が尋ねてみたにゃ。

 

すると、小坊主は、隠すことなく素直に答えたにゃ。

 

「ご心配をおかけしてごめんなさい。実は、西の山にある民部様のお屋敷に呼ばれて、お話相手になったり、ご馳走をいただいたりしています」

 

それを聞いて、住職は、

 

「はて、民部様……」

 

首を傾げたにゃ。

 

ちなみに「民部」は官名だにゃ。どうやら、小坊主はそこそこ身分のある人と友達になり、家に招かれているらしい。

 

にゃけど、住職は疑問に思ったにゃ。

 

(この寺より西の方(かた)、山ばかりで家など無いはずだぞ……)

 

そこで、住職、

 

「なるほど、わかった。とはいえ、お前さんがそんな風にお世話になってるというなら、私からお礼を言わねばならん。ぜひ、民部様をお寺にお招きしなさい」

 

やがて、数日が経った晩、住職がお寺で待っていると、お供をたくさん連れた民部様が駕籠に乗ってやってきたそうにゃ。

 

「これはこれは。ようこそいらっしゃいました」

 

住職がお酒やご馳走で歓迎すると、民部様も喜んで、ひとしきりよもやま話に花が咲いたそうにゃ。

 

そのうち、民部様が、

 

「うちの屋敷の者たちはとても相撲が強い」

 

自慢するので、彼らと、お寺の若い坊主たちで、相撲をとることにしたんだそうにゃ。

 

すると、民部様の言うとおり、供の若者たちは皆本当に強くて、お寺の面々は一度も勝てない。

 

「いやいや、たしかにお強い。参りました」

 

住職が白旗を挙げると、民部様はすっかり上機嫌で、また駕籠に乗って、西の山の方へ帰っていったそうにゃ。

 

その翌朝。

 

目覚めた住職が、お寺の庭に出て、昨晩皆が相撲を取った辺りの地面に目をやると、何やら散らばってるんよ。

 

よく見ると、それは動物の毛にゃ。

 

白い毛や赤い毛(茶色の毛)が、たくさん散らばっている。

 

住職は(なるほど)と思い、その晩、小坊主を連れて民部様のお屋敷を訪ねたにゃ。

 

「民部様、お話があって参りました」

 

すると、民部様は、

 

「実は、私もです」

 

しょんぼりした顔で話し始めたにゃ。

 

「ご住職がお気づきのとおり、われわれはこの山に住むキツネです。いま、引っ越し支度をしているところです」

 

「なんと。それはどうして」

 

「昨夜、お寺で宴会や相撲を楽しんだことが、山のキツネ仲間に知られてしまいました。私たちは人間と勝手に仲良くなってはいけないのです。掟を破ったので、もうここには暮らせなくなりました」

 

「すると、皆さんどこへ?」

 

「入間(郡)の川越へ移るつもりです」

 

民部様たちは、こうして八王子から川越へ棲み家を移したにゃ。その後、どんなことがあったのか、やがて川越でお稲荷様として、人びとに祀られるようになったということにゃ。

 

(ページ上の写真は、川越八幡宮の境内社として祀られている民部稲荷神社にゃ。下の2枚の写真は、丸広百貨店の屋上で祀られている民部稲荷神社にゃ)