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魚屋を救ったお稲荷さん 川越・出世稲荷神社 <川越の伝説>第3話

 

川越の賑やかで長~い商店街・クレアモールを北上していくと、そろそろ熊野神社の参道も近づく右手に「小江戸蔵里」が見えてくる。古い酒蔵なんかを改装した観光施設だにゃ。白壁が眩しくてきれいなところにゃ。

 

でもって、この蔵里を越えて少し行ったところを右折するにゃ。細い通りを進んでいくと、間もなく左手に神社が現れる。

 

「出世稲荷神社」だにゃ。

 

ものすご~く太くて高い2本のイチョウの木が目印で、樹高はどちらも26.5mくらいにゃ。樹齢は650年程と見られているにゃ。

 

そこで、この出世稲荷なんにゃけど、古くは「くぼ稲荷」と呼ばれていたらしいにゃ。

 

たしかに、クレアモール側から見ると、神社のある土地はわずかに標高を下げている。そこが名前の由来なのかもにゃ。ちなみに、辺りは「いちょう窪」とかつて呼ばれていて、沼があったとの話もあるにゃ。

 

そんな、昔々のことにゃ。

 

このくぼ稲荷を日ごろから熱心に拝んでいた魚屋がいたそうにゃ。魚屋といっても、海がはるかに遠い川越にゃから、ウナギだのコイだの、もっぱら川魚を商っていたんだろうにゃ。

 

さて、この魚屋、ある日、用事で桶川まで出かけたそうにゃ。遅くなったので、その日は桶川の宿屋で泊まることにしたそうにゃ。

 

真夜中のこと。

 

魚屋が寝ている部屋の縁側の戸の向こうから、「おい、魚屋、魚屋」と、呼ぶ声が聞こえてきたそうにゃ。

 

目覚めた魚屋が、障子をそっと開けてみると、その向こうの庭に、一匹のキツネが腰を下ろしていたにゃ。

 

「もしや、呼んだのはお前さんかい?」

 

驚く魚屋を前に、キツネは人の言葉を使って話し出したにゃ。

 

「そうだ。呼んだのは俺だ。いいか、魚屋よく聞け。明日の出立は遅くにせよ。早立ちは危ないからな」

 

魚屋がすっかり面食らっていると、

 

「宿を立つのは遅くにしろ。わかったな」

 

キツネはひらりと尾を翻して、闇に消えたそうにゃ。

 

これは、夢か現(うつつ)か―――?

 

次に気が付いたときには、魚屋は夜具の中にいて、外は明るい朝の日差しに包まれていたそうにゃ。

 

さて、そんなことがあったんで、その日、魚屋はとりあえずキツネに言われたとおり宿を出るのを遅らせたにゃ。昼近くになってから川越に向かったそうにゃ。

 

すると、桶川の宿場を離れてしばらく行ったところで、役人やら村人やらが集まって、何やら深刻な顔で話し合いをしている。

 

聞くと、

 

「今朝オオカミの群れが出て、ここで若い娘を襲った」

 

とのことにゃ。その生々しい跡を見て、魚屋はハッと悟ったにゃ。

 

「お稲荷さまだ。くぼ稲荷様がいつも拝んでいる私を助けてくれたんだ。もしも早くに宿を出ていたら、襲われたのは私だったんだ―――」

 

その後、魚屋はますます熱心にくぼ稲荷を拝むようになったにゃ。商売もそれにつれて繁盛したにゃ。

 

やがて、店が大きくなると、誰言うとなくこのお稲荷さんを「出世稲荷」と呼ぶようになったということにゃ。