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率先して転校生を笑い者に。奇妙な儀式をしていた担任の話

 

F先生の奇妙な儀式

 

さて、思い出話をするにゃ。

 

トラキチが小学校3、4年だった時分、面白い担任にクラスを受け持たれたことがあるんよ。「F先生」としておくにゃ。当時30代の男の先生にゃ。

 

このF先生が担任だった2年の間に、トラキチのいたクラスには転校生が3人加わったんよ。男の子が2人、女の子が1人、計3人だったにゃ。

 

F先生は、この3人をつかまえて、それぞれに「儀式」をさせたにゃ。

 

これ、いまだと 問題 になりそうな儀式にゃ。転校生をからかって、クラスのみんなで笑い者にするんよ。それを担任のF先生が率先してやってたにゃ。

 

儀式はこんな流れになってたにゃ。

 

まず、教室の机と椅子をフロアの四方に寄せて、真ん中を広場にするにゃ。

 

でもって、広場にはいくつもモノを置くにゃ。それは誰かのカバンだったり、上靴だったり、重ねた本だったり、あるいはクラスメイトがゴロンと横たわって、床に寝ていたりもするにゃ。要は「障害物」だにゃ。

 

そのうえで、F先生は、これらを結んで歩くコースを1本設定するにゃ。踏んではいけない障害物が次々出てくる、ぐにゃぐにゃ曲がった1本道ということにゃ。

 

一方、転校生は、廊下で待機させられてるにゃ。コースが完成して、準備が整うと、彼(彼女)はアシスタント役のクラスメイトに付き添われ、教室の中に入って来るにゃ。

 

そこで、F先生はこんな宣言をするにゃ。

 

「それでは皆さん、これから○○君(さん)がわが○年○組の仲間になるための儀式を行います。この儀式が無事に終われば○○君(さん)はみんなの仲間です。大歓迎しましょう。そのために、○○君(さん)が障害物に触らずにコースを歩き終えられるよう、みんなで応援しましょう」

 

宣言が終わると、転校生は、教室内の障害物付きコースをゆっくりと歩かされるにゃ。

 

ただし、勝手に進んでいいわけではにゃい。

 

障害物の手前で一旦止まるとか、その障害物を跨ぐときは右足から跨ぐとか、あるいは回れ右して後ろ向きでそうするとか、いちいち細かく先生からの指示を受けながら、そこを辿っていくにゃ。

 

でもって、転校生が無事コースを歩き終えるよにゃ?

 

すると、ここからが実は 本番 にゃ。

 

転校生は、目隠し をされるんよ。

 

今度は同じコースをもう一度、目隠しをしたまま歩いていくことになるにゃ。

 

ところが、ここに仕掛けがあるんよ。

 

転校生が再び廊下に連れ出され、アシスタント役の生徒が彼(彼女)の顔に目隠しをかけている間に、教室では障害物全部が取り払われて、無くなってるにゃ。

 

つまり、床には何も置かれていない状態になっている。

 

そんでもって、目隠しされた転校生は再び教室の中に呼ばれるにゃ。1回目と同じように、コースを歩いて辿っていくにゃ。

 

ただし、繰り返すけど、教室の床にはもう何も置かれていない。

 

にゃけど、転校生はさっきと同じと思っているから、F先生の指示に従って、大きく足を上げたり、よろめいたりしながら、まぼろしの障害物を避けつつ必死で前に進んでいくにゃ。

 

一方、その格好、見ている方にしてみれば面白いにゃ。

 

周りの生徒たちはいちいち大笑いにゃ。

 

「さあ、あなたの爪先の20センチ前で横になって寝ているのは○○君です。踏んづけないように、まずは大きく右脚を上げて、跨いでください」

 

なんて言われて、転校生はそれを本気にしてビビってるにゃ。

 

周囲からの「危ない!」「踏まれる!」なんて声を聞きながら、何も無い床の上を間抜けな格好をしながら進んでいくわけにゃ。

 

そんでもって、彼(彼女)がどうにかコースを歩き終える。

 

そこでF先生は、

 

「おめでとう。ご苦労さん。これで○○君(さん)は○年○組の仲間になりました」

 

なんて言って、みんなに拍手を促すにゃ。

 

次いで、転校生は目隠しを外され、何も無い教室の床を目にして、キョトンと立ち尽くす。

 

「○○君(さん)がいま跨いで来たのは、全部 空気 でした」

 

そこで、この奇妙な儀式は終了にゃ。

 

儀式の効果

 

さて、これの効果にゃ。

 

もちろん、当時は気がつかなかったんにゃけど、転校生を騙してみんなの笑い者にするこの儀式は、トラキチたち子どもの心に面白い効果を生み出すにゃ。

 

洗われるんよ。心の が。

 

新参者の転校生をからかったり、刺激して反応を見たり、ちょっといじめたりなんて、子どもは実は誰もがそんなことをしてみたいにゃ。

 

そんな「闇」が、この儀式のあとは消えるんよ。すっきり。キレイに。

 

何でって、あたりまえだよにゃ。なにせ、担任の先生が率先してクラスのみんなと一緒にそれをやってしまうんにゃもん。

 

言ったら、先生公認の転校生いじめにゃもん。

 

なんで、これを経ると、クラス全員、隠れていた暗い衝動や心の澱が消えて、憑き物が落ちたような状態になるわけにゃ。

 

すると、みんなは一気に転校生に優しくなる。

 

彼(彼女)はまるで昔から同じクラスにいたような、そんな雰囲気になるんよ。数日も経たないうちに、すっかり教室に溶け込むにゃ。

 

以上、トラキチが小学生の頃に体験した、担任の先生による奇妙な儀式のあらましにゃ。

 

にゃけど、これって、同じような話を誰からも一度も聞いたことがないんよ。似た経験をしている人にこれまで会ったことがない。

 

まさかとは思うけど、F先生のオリジナルだったんにゃろうか?

 

先生は、生きているとすればとうに後期高齢者と呼ばれるくらいになってるにゃ。

 

(イラストは「かわいいイラストが無料のイラストレイン」さんからお借りしているにゃ!)