道草猫の創作物

イタリア・ポジターノ 天国の夏を過ごす <トラキチ旅のエッセイ>第12話

ナポリの南、あの「ポンペイ」を灼熱の灰にうずめた有名なヴェスヴィオ火山の裾を抜けると、ソレント半島が横たわっている。 その半島の南岸、断崖を削って進む狭い幹線道路は、ルパン三世がフィアットで疾走しそうな景色。 高所恐怖症の人は、車の窓を覗く…

イタリア・アマルフィ 栄光の記憶はまどろみの中に <トラキチ旅のエッセイ>第11話

日本の商船は、日の丸=日章旗をかかげて海をゆく。商船旗――Civil ensign が、日本の場合、国旗と同じであるからだ。 しかし、そうではない国もある。たとえばイタリア。国旗は緑・白・赤、おなじみの三色旗だが、船は少し違う旗を掲げる。 見ると、緑と赤に…

一千石を投げ捨てても ~阿波徳島・阿波踊りにまつわる昔話 <トラキチ旅のエッセイ>第10話

「もう我慢ができぬ」 男はそうつぶやいて立ち上がると、やにわにその顔を藍染の頬被りで隠し、家人や女中らに気付かれぬよう、ひそかに屋敷を抜け出た。 夏。うだるような暑さの夜。 伸びきった庭草が、周囲を蒸し殺さんばかりに青臭いニオイを辺りに放って…

阿波池田、山間に沈む町。次にウダツを上げる日はいつか <トラキチ旅のエッセイ>第9話

阿波池田。夏。 揺れる陽炎の底に沈み込んだような静かな町を歩いた。 古い家並みの中、ふと1枚の表札が目に留まった。 「蔦 文也」とそこにあった。蔦監督である。 「山あいの町の子どもたちに海を見せてやりたい」 そう言って、県立池田高校野球部を甲子…

一碧湖――伊豆の瞳に恋してる <トラキチ旅のエッセイ>第8話

伊豆半島東部の伊東市に「伊豆の瞳」と呼ばれている小さな湖がある。 一碧湖という。 やや日本の地名らしくない。 そこで古今の漢文を探れば、一碧萬頃――という言葉がある。水面が青々として遠くまで広がるさまをいう。 先憂後楽(後楽園の名前の元となった…

海の上を飛んで大分へ。ホーバークラフトに乗った日のこと <トラキチ旅のエッセイ>第7話

「お客さんを乗せて営業運転しているのは、全国でわが社だけですね」――係員はそう言って胸を張った(2007年頃)。 全国、どころではない。世界を見渡しても見つけるのはなかなか難しい。 場所は、九州、大分。豊後水道に面して三方を海に囲まれる小さな地方…

それは万博から始まった? 私見・大阪空間色彩論 <トラキチ旅のエッセイ>第6話

大阪は色彩豊かである。キタもミナミも変わらない。 狭い街路にさまざまな色彩が幕の内弁当のように押し込まれ、密度感にあふれる景色をつくり出している。 色は派手な原色が愛される。赤、青、黄色――。 あからさまな原色をまとった看板やディスプレイが、子…

わが大阪へのオマージュ <トラキチ旅のエッセイ>第5話

私は歩き方がお笑い芸人の坂田利夫師匠に似ているといわれる。 なので、大阪の街では注意しなければならない。人違いをされて、偉大な師匠の名を汚してはならない。 大阪。数年前から、この街と縁が深い。 通勤するかのように、毎週訪れた頃もある。 さらに…

白水阿弥陀堂・みちのくの姫の美しき御堂 <トラキチ旅のエッセイ>第4話

桜がほころび始めた頃。やわらかな日差しの中、いわきの白水阿弥陀堂を訪れた。 やや南に「勿来の関」があったこの辺り。みちのくの南端。古代から中世にかけては、奥州と関東、ふたつの広大な世界が接する境界だった。 そんな土地に暮らす豪族のもとへ、は…

新潟・天空の花園 その優しさの秘密は? <トラキチ旅のエッセイ>第3話

「新潟に面白い建物があるよ」 「ああ、旧税関(明治2)でしょう」 「いや、ちがう」 「県政記念館(明治16)ですか」 「ちがう。古い建物ばかり思い出すんだな。もっと新しい建物だよ。その県政記念館のすぐ近くにある」 ――と、知人に教えられたのが、新…

水の新潟、神々の新潟 <トラキチ旅のエッセイ>第2話

昼間の気温は30度。真夏の新潟市内。 ところが、陽が沈むとともに、街にはすずしい風がそよぎだした。信濃川のせいだろうか。 人口は約80万人。日本海岸随一の都会。この街は、その中心に巨大な天然のクーラーを備えている。 金沢のように典雅な町並みが…

祇園とはなにか。答えはインドにあった <トラキチ旅のエッセイ>第1話

「祇園の街で認められる」 それは昔も今も、成功を表す尺度のひとつである。 祇園で「旦那」と認められ、舞妓、芸妓という生きた芸術作品のパトロンとなる。そのためには、経済力だけではない、人間に品が要る。 知性も欠かせない。 さらには、品や知性だけ…

戦場となったウクライナに捧げる詩 平和への願いを込めるにゃ

下の一文はトラキチが書いた「詩」にゃ。少しエッセイ風のトラキチ・スタイルの詩にゃ。元は2014年のクリミア半島併合(国際的には未承認)のときに考えたものなんにゃけど、少し手直ししてみたにゃ。 タイトルは「一匹の魚になって、北大西洋を東へと泳いで…

夏の怪談シリーズ.5 「人食い踏切」

僕は大学4年生の大崎達矢。 去年の夏に起った恐ろしい出来事について、話したいと思う。 僕と、僕の親友の身に起こった、あの恐ろしい出来事・・・ 「人食い踏切」での出来事だ。 それは夏休みのこと。ジメジメとした暑い晩だった。 ひとりで部屋にいた僕の…

夏の怪談シリーズ.4 「彼を引きずり込んだ海」

私は由佳。 26歳の会社員です。 去年のことです。 ある男の人を好きになりました。 職場の先輩です。弘也さんといいます。 4つ年上の人です。 その弘也さんには、長年付き合っていた彼女がいました。 私はそのことを弘也さんと付き合い始めてから知りまし…

夏の怪談シリーズ.3 「雨の夜に泣くタクシー運転手」

わたしは長倉ひとみ。 雑誌の記者です。 今日も取材帰りです。 田舎の一軒家で焼き物を焼く陶芸家のもとを訪れました。 取材を終え、最寄りのバス停にたどり着いたのは、もう夕暮れが迫った頃でした。 (え・・・?) 困ったことになりました。 バス停の時刻…

夏の怪談シリーズ.2 「あいつが駅で睨んでる!」

私は麗奈といいます。 20代です。 大きな街で働いています。 いま会社が終って、飲み会の帰りです。 一人です。 実は、困ったことになってるんです。 変な人に付きまとわれているんです。 いま、私のいる場所は駅の構内です。 その人は、ついさっき、街の…

夏の怪談シリーズ.1 「イタズラに怒る空き家の亡霊」

私は真由といいます。 二十歳の大学生です。 私の住む町から車で30分くらいのところ。 寂しい山の中に、その空き家は建っていました。 怖い噂がありました。 その空き家のインターホンを鳴らした人は、帰り道で必ず事故に遭うというのです。 もちろんそれ…

【ネタバレ注意】トラキチが勝手にアレンジした、眉村卓先生作「ねじれた町」についての補足にゃ

2022-06-23 前回の記事――「【ネタバレ注意】眉村卓先生の傑作ジュブナイル「ねじれた町」のストーリーを変えてみるにゃ」についての補足にゃ。 なお、これから本物の「ねじれた町」を読んでみたいという人、以下を読むといわゆるネタバレになるので、くれぐ…

【ネタバレ注意】眉村卓先生の傑作ジュブナイル「ねじれた町」のストーリーを変えてみるにゃ

2022-06-23 「ねじれた町」という小説があるにゃ。 昔々あった「ジュブナイル」と呼ばれていたジャンルの一作にゃ。書かれたのはこのジャンルの第一人者・眉村卓先生にゃ。 眉村先生といえば、’81年に映画化された「ねらわれた学園」が何といっても有名に…