日本人のほとんどが、ハロウィンを知らなかった時代・・・
僕が子どもの頃、僕の住んでいた町では、ハロウィンとはまったく関係のない、ハロウィンそっくりの行事が行われていました。
どんな行事かというと、
一年に一度、夜に、子どもたちが、子どもたちだけで連れ立って、近所の家々を訪問して歩くんです。
訪問しながら、お菓子を貰います。
「くださいな、くださいな」などと、プレッシャーをかけながら。
たんまりと。
なので、まさに「トリック・オア・トリート」なんです。
本物のハロウィンそっくり。
なんとも不思議な風習でしたね。
いまもそのときのことを思い出すと、現実ではなく、夢の中の風景であったかのような、なにやら幻想的な気分がよみがえったりもします。
この行事が行われていたのは、おそらく8月7日だったと思います。いわゆる月遅れの七夕ですね。
参加するのは小学3年生までの子どもたちです。
地域の3年生の男子、一人か二人くらいがリーダーになります。
その日のために、男の子たちは手作りの「カンテラ」を用意します。
カンテラは、空き缶でこしらえます。
主には粉ミルクの缶を使います。
金づちとクギを使って、底にたくさん穴を開けます。
さらに、これを横倒しにします。
針金の取っ手を結わえ付けます。
その取っ手をたしか棒の端に結んだかな・・・?
あるいは、ビニルテープを巻きつけたかな・・・?
横倒しにした缶の中には、ロウソクを立てます。なので、そうしないとやけどをしますからね。缶は一部がかなり熱くなります。
ともあれ、そうして出来上がるのが「カンテラ」です。
要は、手作りの照明具です。
ただし、小学校に上がっていない子は、通常、カンテラは持ちません。市販の提灯を持たされます。
さらに、女の子も提灯です。
なのでカンテラは、いわば上位の男の子の象徴といった感じのものでした。
さて、そんな風に、手に手にカンテラや提灯を下げた10人くらいの子どもたちの集団が、暗~い当時の夜の町をぞろぞろと連れ立って歩くんです。
僕の住んでいた地域の場合、家々が混み合っていたので、すべてを回っていては時間が足りないため、門を叩くべき家はおおむね決まっていました。(と、記憶しています)
なので、どの家もたくさんのお菓子を事前に用意して、待っていてくれましたね。
ただ、一箇所だけ、ルートの中にちょっとした山道があったんです。
10分くらいで抜けられる程度の山道でしたが。
それでも、夜の山道ですから、ほんとうに真っ暗です。真っ暗けのけ。
5歳くらいの小さな子も中にはいますから、年長の子は、それらを守るように前後を固めながら、いっとき緊張の時間を過ごしました。
この山道が、いまもとても印象深いですね。
木立の間から時折見えるオレンジ色の住宅地の明かりや、カンテラと提灯だけを灯しながら暗闇を抜け、家々の光に向かってみんなで坂を下りていくときの風景が、いまも忘れられません。
繰り返しますが、遠い夢の中の情景を思い起こすような、とても不思議な感じがします。
おそまつ。