「大家さんの目がつねに物件に行き届きやすい小規模賃貸併用住宅こそ、僕は、賃貸住宅のうちではもっとも侵入者への不安に対して予防の効くかたちなんだと思っている」
これ、以前にこの場で、僕が書いたものです。
部屋探しをしている入居希望者さんに向けて書きました。
ちなみにこの記事、
ちまたによく見られる「なんちゃってオートロック」の存在を指摘したものです。
賃貸住宅選びをする際、特に女性には気に留めておいてほしい内容です。
よかったら、あとで読んでみてください。
さてさて。
そこで、この「賃貸併用住宅」なんですが、僕にはひとつ、前から気になっていることがあるんです。
今回はそのことをお話しします。
大家さん、もしくはこれから大家さんになろうとされている方へのメッセージです。
大家さんは賃貸併用の上階に住んではダメ!
僕がとても気になっていること。
それは、賃貸併用住宅をつくっている住宅メーカーの広告や、PRについてなんです。
それらは大抵、土地オーナーさんに向けて、
「税制上そのほかで有利なので、賃貸併用住宅を建てませんか?」
と、呼びかけています。
でも、はっきりいって、な~んかどれも変なんです。
ひっかかるんです。
それはこういうこと。
どこのメーカーさんも、賃貸併用住宅をアピールする場合、どこか当然のようにして、
「大家さんは上階にお暮らしください」
と、ススメているように見えるんです。
たとえば、
2階建てなら「2階にお暮しください」です。
3階建てなら
「3階にお暮しください」です。
なんなら、
「3階と、2階の一部も大家さんが占拠しちゃってください」です。
とにもかくにも、
「大家さんは、ぜひともなるべく上階に、上階に、上階に―――」
どうしたって、そう見える。
見えてしまうんです。
で、結論を先にいいますね。
やめといたほうがいいですよ。大家さん。
上階に住むのは。
賃貸経営を趣味や道楽でやれるくらい、お金があり余ってるのなら別ですが、それ以外の人は上階に住んではダメです。
なぜか?
そんなものプロなら誰だって知っています。
大家さんが上階に住むんだったら、1階は当然賃貸用ですよね。
賃貸住宅の1階は人気がないんです。
部屋が埋まりにくいんです。
空室になると長引きやすいんです。
上階に比べて、家賃を下げざるをえなくなることがほとんどなんです。
すると当然、経営に苦労しますでしょ?
ローンの返済を圧迫します。
ちなみに、賃貸併用住宅のローンは、大抵額がでかいですよ。
普通に一戸建てを建てるよりも、借り入れ自体が嵩むからです。
なぜって?
そもそも建物がデカいんですから。
なので、
「家賃収入でローンをアシストできるから、賃貸併用住宅の場合、おトクにマイホームが建てられる」
は、たしかに半分はいえることですが、
半分は詭弁ですからね。
ちゃんと想定どおりの家賃で、目論見どおりの入居率で部屋が埋ってくれれば―――が、あくまで前提のハナシです。
なのに、わざわざリスクを踏んで、入居者が入ってくれやすい上階のスペースを
大家さんが埋めてしまう。
入居者に嫌われる1階を商売道具にしてしまう。
それって、かなりヘンですよというハナシです。
クギ刺させてください。
賃貸併用住宅では、1階は大家さんがご自宅として埋めるのが
原則です。
ざっと例を挙げてみましょう。
各住宅メーカーさんのモデルプランです
まず、大和ハウスさんです。
(大和ハウス工業さんウェブサイトより引用)
これは、ページのトップに掲げられているイメージカットですが、大家さんのおうちは3階ということになっていますね。1階と2階が賃貸です。
次はセキスイハイムさんです。
(セキスイハイムさんウェブサイトより引用)
4つプランがあるうち、上から2番目のType2だけが、大家さんが上階を蝕(むしば)んでいないかたちですね。
ただし、その目的は、
「もっぱら大家さんの老後の体力的負担の軽減のため」
であるように読み取れます。
う~ん・・・
たしかにそれもそうなんですが、そうした理由以前に、持続可能な賃貸経営のためにこそ、
「大家さんは1階にいてくださいね」
なんです。
「ちゃんと余裕でローンを支払っていけるように、大家さんは大事な商売道具である上階を占拠しちゃダメですよ」
のはずなんです。
次、ヘーベルメゾンの旭化成ホームズさんです。
(旭化成ホームズさんウェブサイトより引用)
こ、これって・・・!
よ~く見てください。
物件を建ててから15年目以降は、大家さんご一家が3階と2階を埋めちゃうかたちになってますね。
つまり、
・築15年後以降30年後までのそうでなくとも賃貸経営が苦しくなる15年間
・築15年から30年を経る古い物件の
・不利な1階の部屋だけで
・大家さんは勝負してください
と、いうモデルです。
旭化成さん、僕、好きな会社だけど、それってかなりサバイバルな提案では?
なお、大家さんと子どもさん世帯で「1、2階を埋める」ことで、子どもさん世帯が本来ほかで払わされる家賃をゼロにする。
その上で、「商品として有利な3階」で賃貸収入を稼ぐ。
と、いう戦略ならありえますけどね。
上のイラストは、なぜかそれと考え方が真逆です。
次は積水ハウスさんです。
なお、よく混同されますが、積水ハウスさんってセキスイハイムさんとは別の会社なんですよ。
(積水ハウスさんウェブサイトより引用)
うむむむ・・・
こちらも5プラン中4プランが、有力な経営資源である2階以上を大家さんが蝕むかたちになってますね。
繰り返しますが、とにかくありえないんです。
特に一番左のプランなんて。
すくなくとも、その大家さんが相当の借金を抱えて賃貸経営に乗り出すんでしたら、
「上から順に美味しいとこ大家さんが取っちゃってください」
は、危険なんです。
はなはだキケン!
フウ。さてさて。
以上、ざっと名だたる一流4メーカーが、サイトの目立つところに掲げている
「賃貸併用住宅とはこういうもんだ」
と、いった画像を抜粋してみましたが、どうですか。
変でしょう?
とにかくどのメーカーさんも、大家さんが上階に住むイメージを
前面に、前面に、前面に、
押し出しているように僕には見えるんです。
もちろん、
「これらの表現はサイトやパンフレットの上だけのことで、現場では営業スタッフがしっかりとリスクを説明していますよ」
と、いうことならまだいいでしょう。
しかし、そうでないのなら・・・?
僕はそれがどうも心配でしかたがない、ということです。
ファミリー用なら1階=賃貸でいい?
ここでこんな声が挙がりそうですね。
「すると、1階をファミリー用の賃貸物件にするんだったら、1階を大家さんが埋めないのもアリじゃない?」
ハイ、そうです。アリです。
1階を広い間取りの庭付きの賃貸物件にするかたちですね。
僕はいいプランだと思います。
たとえば子どもにとって、土や草に触れられる庭って、ワンダーランドですからね。
子育て世代を応援したいご意志をもつ、優しいご一家が賃貸併用住宅を考える場合、よくそういう理想を掲げられます。
ところが、実はそれこそが、
賃貸経営をある程度「道楽」や「福祉」でやれる、余裕のある人じゃなければ難しいパターンなんです。
悲しいことに。
その理由は?
利回りです。要は家賃なんです。
たとえば、わかりやすく―――
2階建ての賃貸併用住宅を建てるとします。
ファミリータイプの70㎡1戸で、その建物の1階がまるまる埋まるかたちを想像してください。
そこから揚がる家賃って、大体どの地域でも、
23㎡くらいの1K3部屋から揚がる家賃の2/3から、下手をすれば半分程度になっちゃうんです。
たとえばこんな感じです。
・ファミリータイプの70㎡
→ 賃料10~12万円
・同じロケーションに23㎡の単身用が3つ
→ 賃料18~21万円(1戸6~7万円)
するとこれ、収益機会のはなはだしい逸失ですね。
たとえ動機が美しくはあったとしても、如何せん、まともな利回りが確保できません。(新築賃貸併用住宅のローンを苦しまずに返していける利回りです)
しかも、その70㎡で退去が出たらどうなります?
家賃収入が一気にゼロになります。
次に入居してくれるファミリーさんが見つかるまでは完全にゼロ。無収入です。
一方、それが単身用3戸だった場合はどうでしょう。
赤の他人同士である3名の入居者が、揃って同時に退去してしまうような事態というのは、よほど運が悪くなければ起こりません。
その意味で、部屋数が多いのにはリスクヘッジの意味もあるわけです。
なので、
賃貸併用住宅の限られた賃貸用スペースに、生産効率の悪いファミリー用物件をはめ込むというのは、とてもリスキーなことなんです。
で、そのうえで、
「じゃあやっぱり単身用か。1階を単身用複数で」
は、さっき言ったとおりです。結局不利なんです。
1階っていうだけで、女性見込み客がともすれば半分~8割方減りますからね。
そういうことなんです。
なにやら因果なハナシですが。
音で気を使うのは大家さんの方
さて、せっかくですのでもうひとつ加えましょう。
賃貸併用住宅の建築を検討される方が、皆さん一度はかならず気にされることがあります。
それは・・・
「マナーの悪い入居者が入って、騒音に苦しめられたりしないだろうか?」
ハイ、ごもっともです。
でも安心(?)してください。
これって実際は逆になることが多いんです。
そのことは、大家さんが大人しく(?)1階に収まっておいた方がいい理由のひとつにもなってきます。
まず答えから。
賃貸併用住宅で、音で周りに迷惑をかける可能性が高いのは、 入居者ではなくむしろ大家さんの方なんです。
なぜか?
だって、賃貸併用住宅の賃貸部分に住んでいる方って、ファミリー用の部屋をわざわざ作るのではない限り、単身の皆さんでしょ?
基本、彼らは部屋で声は出さない。
四六時中、複数の人間がそこにいるわけでもありませんよね。
単身者って、本来は静かなんです。
一方、大家さんの方は違います。家族でお暮しです。
四六時中そこには複数の人間がいて、話し声も絶えないんです。
しかも、そこは立派な「ご自宅」ですから、ともすれば訪問客も絶えなかったりする。
音を出す機会というのは、圧倒的に大家さん側の方が多くなるのが普通なんです。
なので、
「入居者の出す騒音に苦しめられたりしないだろうか?」
と、事前には思っていても、現実は大概逆なんです。
たとえば、
「離れて住んでいる息子夫婦に孫が生まれた。成長し、最近はバタバタ走るようになった。でもわが家は2階。真下には入居者さんが3人も住んでいる。ウルサイと思われ、出て行かれたら困る。とてもしょっちゅう遊びには来させられないぞ・・・」
そんな風に悩むことになるのは、大抵大家さんの方です。
こんな若いオーナーさんもいましたね。
「うちだけママ友パーティの会場にできない。人間関係上辛い」
昭和の昔の共同炊事場付きのボロアパートだったら、ママ友も入居者も、みんな大家さんちに招いて大宴会なんてこともできたんでしょうが(笑)、いまはそういう時代でもありません。
さてさて、長くなりました。
ともあれ、今回書いたようなことは、
賃貸併用住宅を建てようとされている方にとって、あらかじめ気づきやすいようで、実際はなかなか気づけないことのようです。
この記事が、そんな「気づき」の一端になれば、僕としてはこの上なく幸いです。
今回もおそまつ!
(イラストは「かわいいイラストが無料のイラストレイン」さんより)