ボロボロのポンコツ。廃車だろうな…と思って見ていると、やがて通りの向こうからオーナーが登場。
錆びついたドアをギイと引き開け、ホコリだらけのシートに座るや、高らかに空ぶかし一発。辺りに黒煙を撒き散らせて、けたたましく去ってゆく。
ここカイロの街角では、普通に見られる風景だ。
もっとも、道端には放置されたままの本当のスクラップもたくさん並んでいる。
しかし、決して油断はできない。
スクラップ車両とまるで見分けのつかない、砂漠の砂ぼこりにまみれた、前後のバンパーさえ外れて見当たらないポンコツも、実はその持ち主がこよなく愛する大切なパートナーだったりするから、注意が必要だ。
昭和の漫画「ど根性ガエル」に、南先生という人が登場する。
東京の下町に暮らす安月給の教員で、おんぼろアパートの狭苦しい部屋に住んでいる。ポンコツセダン「ブロラン号」を友とする。
なかなかの男前だが、ガニマタ歩きが直らない。
澄んだ青い空に朗々とコーランが響くエジプト・カイロの下町を歩いていると、子どもが、老人が、街の若者が、ひきもきらず明るく声をかけてくる。
「日本人か」「どこからきた」「どこへいく」
下手な冗談でも返そうものなら、ドッと笑いが辺りを包み込む。
街角に元気なブロラン号がたくさん佇んでいるように、多分、この街には、ひろしやゴリライモ、五郎や宝寿司の旦那、そして梅さん、南先生が、まだ大勢暮らしているのにちがいない。
(上記は初出2009年。トラキチ旅のエッセイは、過去に別の個人サイトで別名で公開していたコンテンツにゃ)
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