前回の記事にも拙文をしたためたとおりです。
今年(2018)もパシフィックリーグのチームによる圧勝に終わったプロ野球「日本シリーズ」。
初夏の交流戦でも、まるで当然のごとくパ・リーグが勝ち越しているため(59勝48敗1分)・・・
【日本シリーズ】
・ここ16年間で、セ・リーグのチームが勝ったのは3度だけ
(ここ6年はパ・リーグのチームのみが優勝)
【セ・パ交流戦】
・2005年の開始以来、セ・リーグが勝ったのは2009年の1度だけ
と、いった、実にいびつな状況が続いています。
これではまるで、サッカーでいう1部リーグと2部リーグの実力差みたいなものですね。(悲)
その理由については、専門家の皆さんがさまざま語っています。主な3つを挙げてみましょう。
1.「DH」原因説
一番多く聞かれるのがこれです。DH(designated hitter)制度原因説です。
ピッチャーが打席に立たない代わりに、「指名打者」と日本では呼ばれる、守備に就かない選手が打席に立つ制度です。
1973年にアメリカ・メジャーリーグのアメリカンリーグで採用され、そののち、1975年からは日本のパシフィックリーグでも採用されました。
このDH制を布いたもとでは、リーグ内の各チームが総じて強くなりやすいといわれています。主な理由は以下の二つです。
ピッチャーが鍛えられる
DHが無い場合、ピッチャーは、さほど打たれていなくても、しばしば降板を余儀なくされます。
味方の攻撃時、得点チャンスをものにするため、ピッチャーの打順が回ってくるとそこでピンチヒッターを送られることが多くなるためです。
しかし、DH制のもとではそうはなりません。ピッチャーにははじめから打順が用意されません。
そのため、DH制が布かれているリーグのピッチャーは、理不尽な(?)交代が無い分、必然的に投球回数を稼ぎやすくなります。
「よく鍛えられる」と、いう論理です。
また、マウンドに立つピッチャーの側から見ると、DHのもとでは、打つのが下手な相手ピッチャーが打席に立たないため、先方チームの打線に穴がなくなります。気を抜くことのできる場面がなくなり、ますます、その腕が鍛えられるというわけです。
打線が厚くなる
DHが無い場合、たとえば1試合中、選手の交代が1度も無ければ、出場する選手は9人です。そのうち、打つのが仕事の野手は8人です。
一方、DHがある場合、1試合中、選手の交代がまったく無い場合でも、出場する選手は10人です。ピッチャーは打席に立たないので、野手8人と打撃専門の指名打者1人、合わせて9人が打順を構成します。貴重な実戦での打席を経験できるバッターが、DH制度が無い場合よりも、当然ですが1人多くなるわけです。
このかたちがベースにあるため、DHがあるリーグでは、投手以外で打席経験のある選手の数が基本として多くなります。
すなわち、「DHを採用しているリーグでは打線が厚くなりやすい」と、単純にはいえるわけです。
まとめると・・・
DH制度のもとでは、
・投手は鍛えられやすい
・打撃陣も層が厚くなりやすい
と、いわれています。
これらはおそらくほぼ正解でしょう。
そのため、パ・リーグが強く、セ・リーグが弱い主な理由として、多くの人がこの「DH制度の有無」を挙げています。
また、さらに加えると、こんな説も語られています。
「DH無し」と「現代野球」が、そもそもアンマッチの関係にあるという説です。
つまり、DHが無いセ・リーグの各球団においては、現代野球をプレーする上で、チーム力が自然に弱まる不利な状況にあるというのです。
どういうことかというと・・・
「DH無し」と「現代野球」アンマッチ説
現代野球では、先発 ~ 複数の中継ぎ陣 ~ 抑え と、ピッチャーの細かな分業が進んでいます。
そのことによって、たとえピッチャーが打席に立つ「DH無し」のリーグであっても、ピッチャー個々においては、過去よりも打席経験がかなり少なくなっているはずだ、というのです。
(論者によればです。正しくはデータの洗い出しが必要です)
となると、もともとバッティングの練習量が少ないピッチャーですので、そこに実戦経験の乏しさも加わり、ますます打撃能力が失われることとなります。
そのため、
「いまや、DHのあるリーグのピッチャーと変わらなくなっているのが現状だ」
と、そんな考察です。
つまり、本来ならばこうなるということです。
・DHのあるリーグのピッチャーはいわば打撃の素人
・DHの無いリーグのピッチャーは、普段の経験上多少は打てるはず
ところが、現代野球では上記の理由から、この差が大きく損なわれているため、DHの無いセ・リーグのチームは、DHがあるパ・リーグのチームに対して、過去には持っていたアドバンテージをほとんど失っており、その結果・・・
・DH無しの試合でも有利な立場に立てない
・「パ」のチームに負け越しやすい
と、いうわけです。
メジャーリーグではどうなのか?
さて、すると気になるのが、海の向こうの状況ですね。
アメリカ・メジャーリーグでも、日本と同様、2つのリーグがDHの有無を分けています。
アメリカンリーグ・・・有
ナショナルリーグ・・・無
です。
なお、ニューヨーク・ヤンキースやボストン・レッドソックスが所属しているのがアメリカンリーグ。
ニューヨーク・メッツや、ロサンゼルス・ドジャースが所属しているのがナショナルリーグです。
そこで、アメリカでのDH有無による差ですが、日本ほどの大きな格差が顕われているわけではありません。
たとえば、両リーグのチャンピオンが激突するワールドシリーズのここ10年(2009年以降)の様子ですが、
・アメリカンリーグ(DH有)5勝
・ナショナルリーグ(DH無)5勝
と、なっています。
さらに、ここ15年間をさかのぼっても(2004年以降)、
・アメリカンリーグ 8勝
・ナショナルリーグ 7勝
両者はほぼ拮抗しています。
しかし、日本の交流戦に当たる「インターリーグ」の方を見ると状況は一変します。
やはり・・・というべきなのか、偏りがはっきりと出ています。
端的には、今季2018年、
「これまで14年連続で負け越していたナ・リーグが、15年ぶりの勝ち越しを決めた」
ことが、現地での大きなニュースとなっているとおりです。
つまり、アメリカでも、やはりDH制を布くアメリカンリーグが、概して強い傾向にあるということです。
ただし、メジャーのインターリーグは、日本の交流戦のように、両リーグの各チームが総当りでぶつかるかたちにはなっていません。
なので、結果の重要度に関しては多少割り引いておく必要はあるのですが、それでも、昨シーズンまでの14年連続ナ・リーグ負け越しという現実は軽くはありません。
かなり明確な、DH有無による「差」を示すものといっていいはずです。
2.強者とライバルの存在
これは、日本ハムファイターズの栗山英樹監督が過去に語ったとされる「パ・リーグが強い」理由です。
強者とは誰か?
福岡ソフトバンクホークスのことです。
「強いホークスにどうしたら勝てるのか、どの球団も一生懸命考えながら戦っている。だからパ・リーグは強い」
と、いった主旨の栗山監督の発言です。
これ、単なる現場からのメンタル論のようにも聞こえますよね。でも、調べてみると、どうやらそうでもなさそうなんです。
その理由を挙げましょう。
「黄金時代」は、強力なライバルがいてこそ
こういうデータがあります。
パ・リーグには、ここ30数年の間に、二つの「黄金時代」がありました。
・西武ライオンズ黄金時代・・・1982~1994
・ソフトバンクホークス黄金時代・・・2010~
です。
ちなみに前者については「1998年まで」とする人もいるでしょう。
一方、後者のソフトバンク黄金時代の方は、先日の「CS下克上」での日本シリーズ優勝によって、とりあえずいまも続いているかたちですね。
さらに続くかどうかは、来シーズンが多分鍵となりそうです。
さて、そこで前者の西武黄金時代のピークといえば、7シーズン中6度の日本一を達成した'86~'92年にかけてです。
しかしながら、オールドファンは思い出してください。実はこの間、強かったのは西武だけじゃないんです。各年のリーグ1位~3位のほとんどを同じ3チームが占めています。
思い出せましたか?
西武ライオンズのほかは、近鉄とオリックス('88までは阪急)です。
例外はたったの2回きりです。
'87および'88シーズンの3位に、日本ハムがひそかに(?)滑り込んでいるだけです。
当時、傑出した戦力を誇り、全盛期を気楽に謳歌していたかのような西武ですが、実は、それをおびやかす強力なライバルチームが2チームつねに背後にいたわけです。
現在のソフトバンク黄金時代についても、それに近い状況が挙げられます。
2010年から今年までの9シーズンのうち、7シーズンで、西武か日本ハムのいずれか、または両方が、ソフトバンクと順位の前後を争っています。
例外は、東北楽天が優勝した2013年と、オリックスが、優勝したソフトバンクに続く2位を掠め取った2014年のみです。
以上、どうでしょう。
こうして見ると、栗山監督による「強いソフトバンクに他球団が必死で勝とうとするためリーグが底上げされている」旨の発言については、たしかに一理アリといえるでしょう。
強力な数チームによるライバル同士が、同じ顔ぶれで毎年しのぎを削っているようだと、そのリーグはそれらに引っ張られるかたちで、必然的に全体が強くなるらしい、と、いうことです。
巨人V9も、強いライバルがいてこそ
さらに、もっと古い時代の話ですが、1965年から73年にかけてのセ・リーグ、読売巨人軍(ジャイアンツ)の黄金時代にも、実は同じことがいえます。
こちらは、西武やソフトバンクももう真っ青。
「リーグ9連覇。ついでに日本一も9度達成」という、とんでもない超黄金時代です。
ですが・・・
よく見ると、こちらでもその間、ジャイアンツに続いて2位になるチームといえば、やはりその数はグッと絞られていたのです。
その顔ぶれ、わずか2チームです。
阪神と中日です。
さらに3位は、9シーズン中、阪神が3度、中日が2度、大洋(現横浜)が3度、広島が1度となっています。
すなわち、1~3位 × 9年間 = 計27シート が、この間用意されていたわけですが、巨人、阪神、中日以外のチームがここに座れたのはわずか4度のみ。しかも末席(3位)。
ジャイアンツによるリーグ9連覇というのは、ほぼ、巨人・阪神・中日による激しい三つ巴の戦いの中から生まれたものでした。
一方、パ・リーグも同時期、2強時代を迎えていました。
阪急・南海時代です。
とはいえ、この当時といえば、ドラフト会議発足(1965年)前に積み上げられていた各チームの戦力格差が、チーム間だけでなく、リーグ間においても、いまだかなり影を落としていた時代です(つまり人気の「セ」優位)。
「ジャイアンツ・9年連続日本一」という偉業は、圧倒的に強いリーグで戦う、圧倒的に強い3チームが切磋琢磨する中から、ジャイアンツが毎年這い上がってくることで、成し得ていたものであるということがいえそうです。
3.環境がパ・リーグを強くしている
さて、以上に挙げた1、2で、「パ・リーグが強い理由についてはもう十分材料が揃った」と、いう感じかもしれませんね。
でも、理由として挙がるものはほかにもあります。
付け加えましょう。
それは「環境」です。
これまでに述べたDH制度、さらに強者とライバルの関係も、もちろん環境といえば環境なんですが、そのほかにもいくつか、パ・リーグを強くしている環境の存在を指摘する声が挙がっています。
パ・リーグには「選手を強くする」球場が多い
野球場のフィールド部分に「広い」「狭い」の違いがあることは、ファンにはよく知られています。
その「広さ」「狭さ」に加え、フェンスの高さや形状、自然環境など、色々な要素が絡むことで、「ホームランが出やすい」「出にくい」の違いが、各球場に生まれていることも多くのファンが知っています。
ざっと現状、セ・パ12球団の本拠地でいうとこんな感じでしょう。
【広くてホームランが出にくい】
・札幌ドーム(日本ハム)
・千葉マリンスタジアム(ロッテ)
・大阪ドーム(オリックス)
・ナゴヤドーム(中日)
・マツダスタジアム(広島)
【広いがホームランは出やすい】
・宮城球場(楽天)
・西武ドーム(西武)
【狭いがホームランは出にくい】
・甲子園球場(阪神)
(やや特殊な形の球場で、見方によっては広いともいえます)
【狭くてホームランが出やすい】
・福岡ドーム(ソフトバンク)
・東京ドーム(巨人)
・神宮球場(ヤクルト)
・横浜スタジアム(DeNA)
以上については、微妙なところで若干異論も出てくることでしょう。ただ、おそらく多くの意見が一致するところとして、
「広くてホームランが出にくい」・・・パ・3球場 セ・2球場
長打でバッターが走らされ、外野手にもスピードや遠投能力が求められる球場
「狭くてホームランが出やすい」・・・パ・1球場 セ・3球場
上記とは逆の楽な球場(ただしバッテリーはホームランに神経をつかう)
これらの顔ぶれについては、おおむね妥当といえるのではないかと思います。
そこで問題は―――、
もう説明するまでもありませんね。
後者の「楽な球場」は、セ・リーグに多く集中しています。楽じゃない球場を本拠地にしている中日や広島も、巨人、ヤクルト、DeNAとの試合の時は、ほぼこれら楽な球場でプレーができます。
逆にパ・リーグでは、特にソフトバンクを除いては、楽な球場で戦える機会は限られます。
ホームランバッターは、大きなフライのみならず、フルスイングからのするどい打球をスタンドにまで飛び込ませるパワーがなければ多くの球場で記録を稼げず、
外野手は、俊足で守備範囲が広く、かつ遠投が利かなければ、多くの球場でよいプレーを見せることができません。
パ・リーグに「選手を強くする」球場が多いという意見の、以上が主な根拠といったところです。
パ・リーグのチームは、強くなければお客さんが来ない
もうひとつ、こちらも指摘する人が多い「環境」です。
セ・リーグの球団には、過去にフランチャイズを移転したことのない、レガシーにあふれた球団が揃っています。よって親子数代に渡るファンも多く、いわば固定票が磐石です。
しかも、本拠地となるスタジアムは、広島カープを除いてすべて日本の三大都市圏の中にあり、さらに広島も加えた全球場がアクセス至便です。
要は、黙っていても球場にお客さんが集まる条件に、これらは恵まれているわけです。
一方、パ・リーグの各球団といえば、過去のさまざまな経緯から大きく全国に分散しています。いわゆる在京球団といえば、セ・リーグ2球団に対し、パはゼロです。さらには関西1、名古屋ゼロ。三大都市圏に比べマーケットのボリュームでは大きく劣らざるをえない地方都市(札幌・仙台・福岡)に、3球団がフランチャイズを構えています。球場アクセスも、いくつかは微妙な程度の差ですが、総じてセ・リーグの各本拠地に比べて劣っています。
なので、パ・リーグの各チームは「強くなければお客さんが球場にやってこなくなる」というプレッシャーにつねに脅かされています。当然、つねに強くあるために、それぞれが徹底して努力を重ねているわけです(そのはずです)。
さてさて、以上。
「パ・リーグ強すぎ、セ・リーグ弱すぎの3大理由はこれ!」と、題して、3つの理由を挙げてみました。
同じプロにして、現状、この著しい格差。
前回の記事にも書きましたが、このまま放っておくと、将来おそらくロクな結果を生まないような気がしてなりません。
かつての「国民全員野球ファン」的な時代こそたしかに過ぎ去ったものの、
経済的影響力にしても、国際的な実力にしても、いまだ日本が誇れる代表的なスポーツといえる野球について、ファンはこのことを真剣に考えていくべきだと思います。
おそまつ!
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